本論は日本銀行のリスク性資産の買い入れ、とりわけ2013年4月以降の量的・質的金融緩和(QQE)政策の下で「質的緩和」と位置付けられてきた上場投資信託(ETF)の買い入れに注目し、①日銀はどのような状況の下で買い入れを進めてきたのかを示す政策反応関数、②買い入れの結果、株式市場で何が起きていたのか、③日銀は買い入れの目的を果たしたのか、について考察するものである。離散選択モデルによる検証の結果、日銀はETFの購入に際し、TOPIXの前日終値から当日午前終値までのリターン、TOPIX午前終値の5日移動平均からの乖離率、高頻度データから計測した午前の実現ボラティリティ(Realized Volatility)、前日のリスクプレミアム指標などを参照していることが確かめられた。
双方向の因果性(simultaneous causality)の問題に対処するため、株価リターンやボラティリティが午前から午後にかけてどの程度変化したかを調べると、日銀のETF買い入れにより株価リターンは午後に上昇し、ボラティリティは低下、予想株式益回りと安全資産利子率の差で表されるイールドスプレッドは縮小していたことが確認できた。
TOPIX構成銘柄を対象にしたパネルデータ分析の結果、日銀のETF買い入れがイールドスプレッドを縮小したのは、TOPIX構成銘柄の中でも時価総額が相対的に小さい企業だった。東証再編が進む中で迎える将来の出口局面で考慮しなければならない点と言える。
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