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金融研究

植田新日銀の課題――政策金利を2%に引き上げると日銀に損失も

―金融正常化の過程で発生する損失の試算―

主査:左三川(笛田) 郁子
  金融研究室長兼主任研究員
2019年度委託研究生:中野 雅貴
   

2023/04/11

<<ポイント>>
  1. 日本銀行の新しい総裁に経済学者の植田和男氏が就任した。植田新日銀の課題は、黒田東彦・前総裁の下で導入した長短金利操作付き量的・質的金融緩和(通称イールドカーブ・コントロール、YCC)を見直し、長期金利の水準が市場で決まるよう、促すことである。債券市場の機能度低下というYCCの副作用に配慮した金融政策運営に改める必要がある。本リポートの目的は、バランスシート拡大の先にある日銀の出口と、正常化の過程で日銀に発生する損失を試算し、潜在的な財政コストについて考えることにある。歳出圧力が高まる中で、追加的に発生する財政のコストについてあらかじめ備えることは、財政運営の健全化を進める上でも重要である。
  2. 金融正常化の過程で発生する損失について、以下4つのシナリオ――①短期の政策金利をわずかにプラスに戻す「マイナス金利解除シナリオ」、②政策金利を1%まで引き上げる「標準シナリオ」、③政策金利を2%まで引き上げる「金利上振れシナリオ」、④政策金利を早期に2%まで引き上げる「金利急騰シナリオ」――に基づき試算したところ、日銀は金利上振れシナリオでは3年間、金利急騰シナリオでは5年間連続で赤字となる。
  3. 赤字補填の財源を引当金のほかに、黒田日銀時代の国庫納付金や税金にまで拡張すると、金利急騰シナリオ以外では異次元緩和で発生した収益で損失を処理できる。日銀は、①金融正常化の過程で発生する損失の見通しを、正常化の条件や手順などと合わせて公表し、金融正常化を緩やかなペースで進めていく、②損失が発生した場合の穴埋めには引当金のほかに、黒田時代の累積収益も含めた広義の自己資本の枠で処理していく、③時価50兆円を上回るリスク性資産のETF(上場投資信託)については、株価が損益分岐点を大幅に上回る間は、損失処理に分配金収入を活用する――ことが検討課題となろう。

【金利上振れシナリオでは3年、金利急騰シナリオでは5年、赤字が続く(試算値)】