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日本経済研究センター Japan Center Economic Research

最終更新日:2010年4月12日
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読むゼミ

「若年層を中心とした雇用、貧困対策を考える
  ―ワーキングプアを成長の原動力に転換させるためには」 (2010年3月27日開催)

山崎史郎・内閣府政策統括官
山口寛士・京都府雇用政策監
山根木晴久・連合非正規労働センター総合局長
五石敬路・日本経済研究センター特別研究員/東京市政調査会主任研究員
コーディネーター)小林辰男・日本経済研究センター主任研究員

福祉・雇用対策、若者にも力点を

【講演要旨】
 景気回復の兆しが感じられつつある一方、雇用情勢の厳しさが緩む気配は強まらない。若年失業、長期失業、非正規雇用の増加という新たな雇用・社会保障問題に対して、従来とは異なる対応が求められている。これまで日本の社会保障政策は、企業の手厚い福利厚生を前提とし、高齢者福祉を主眼に置いてきた。ところが近年、職を失うと同時に住居、生活資金、債務、メンタルヘルスの問題を抱え、人生設計に悩む現役世代が増えている。また、新卒時点の就職機会を逃し、大きなダメージを受ける若者が多くなっている。そのため、従来よりも幅広い就業支援が求められている。しかし、厳しい財政状況のために国の支援のみに頼り続けることは難しい。官民の協力により、活用されていない労働力を地域社会や少子高齢化時代の成長分野へ振り向けることが重要だ。さらに、産業・雇用・教育・福祉の垣根を越え、新たな経済構造に対応した制度設計に取り組む必要がある。

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左から 小林辰男、山崎史郎氏、山口寛士氏、山根木晴久、五石敬路


セーフティネットの再構築が急務

小林 若年者の雇用、貧困・ワーキング・プア問題の現状と課題をどう整理するか。

五石 現在の日本のセーフティネットはいわば、「底抜けした」状態にある。独自の計算によると、貧困状態と貧困でない状態を行き来する状態にある世帯に対する支援が十分でない。日本全体の5038万世帯のうち11.6%が貧困世帯で、稼動世帯(就労者のいる貧困世帯)は7.6%を占めているが、生活保護を受けている稼動世帯は0.3%にとどまっている。また、全失業者のうち8割以上は雇用保険の適用を受けておらず、そこには長期失業者や非正規労働者が多く含まれている。国際比較した結果によると、2007年における日本の長期失業率はOECD諸国平均を超えている。
 (働いていても貧困状態にある)ワーキング・プアの支援制度には欠陥がある。自治体の福祉事務所で働くケースワーカーの多くは2〜3年で配置転換を受けるため、生活保護に関する専門知識や職務経験が浅く対応が十分とはいえない。生活保護の申請をしようとてもハローワーク(公共職業安定所)に行くように勧める「水際作戦」が行われている。生活保護受給者、母子世帯、若年者それぞれに対する国の政策には一貫性がなく、効果は疑問だ。
 そこで、ワーキング・プア対策に関する提言は、国は給付、自治体はケアやサービスの提供という体制により、それぞれの役割を明確にすることだ。国は給付つき税額控除も視野に入れ、求職者の生活支援を検討すべきだ。地方は国所管の給付は行わず、ワーキング・プアの就職を継続的に支援することを重視してはどうか。自治体は届出によって無料職業紹介事業を行うことができる。その際、英国やドイツでハローワークと福祉事務所が統合され、そこで実施されているように、求職者に対して同じ担当者が支援を行う体制が望ましい。ワーキング・プアの多くは精神的な問題もあり、即座に就職することが難しい。段階的に社会統合させるためメニューの多様化が必要だ。
 これまでの国の雇用対策によって各地のNPO(民間非営利団体)も様々な事業を実施した経験があり、その内容を地域毎に整理したメニューを提供するのがよい。家電のリサイクルを担う地方の中小企業、フードバンクの設立、「ふるさと雇用再生特別基金」の時限終了後の事業支援継続による雇用の創出も検討に値する。

山崎史郎・内閣府政策統括官
山崎 鳩山政権発足後、政府は、昨年10月、12月と2度の雇用対策を打ち出した。政府の対策は、大まかに分けて5つの柱からなる。1つは失業を増やさないための「雇用維持支援」だ。雇用調整助成金の要件を緩和し、200万人以上の雇用を維持している。第2は「貧困・困窮者支援」として、就職や住まい確保の支援を行っている。この支援チームの事務局長には湯浅誠氏が就いていた分野で、地方自治体の協力により「ワンストップ・サービス・デイ」や年末年始の生活総合相談に精力的に取り組んだ。第3に内定状況の厳しさに対応した「新卒者支援」として、新卒者の就職支援や求人開拓などに取り組んでいる。4番目は各地域において雇用を創出することを目指す「雇用創造」で、介護、医療、農林業といったこれからの成長産業における人材育成・確保が重要課題となっている。その他に、トランポリン型の「第2のセーフティネット」(一度失業しても教育・訓練を通じて再び就業する仕組み)の整備を進めている。
 既存の日本の社会保障制度は主に高齢者を対象にしてきており、若者の生活は主に企業が支えてきた。このため、一旦企業の支えが弱まると様々な問題が生じてしまう。日本において若年者の雇用問題は重要かつ新たな問題であり、支援体制の再構築を検討する必要がある。
 「貧困・困窮者支援」において重要な点の1つは「ワンストップ・サービス」(一度の手続きで、必要とする関連作業をすべて完了)であり、行政サービスの統合を課題として取り組んでいる。場所のワンストップ化に限らず、五石氏の提言にあるように、相談者に対し個別の支援担当者を置くことにより「人によるワンストップ化」を図り、相談者に必要な様々な支援内容を支援サイドが用意することも重要だと思う。現在は住居についての支援も不十分だ。貧困問題の現状は、既存の枠組みを超えており、生活基盤の確保を充実させることが今後の課題だ。ワーキング・プアの問題については、職業能力を高めて自立した生活を送ることを目指すことが重要となるが、最低賃金の問題も大きなテーマであり、給付付き税額控除のような公的制度も検討課題となっている。
 新卒者の就職内定状況は過去最悪の厳しさであり、高卒・大卒計20万人程度がまだ内定を得ていない事態を憂慮している。特に、北海道や沖縄など地方の状況は大変厳しい。これまで4月就職支援を目標としてきたが、今後は「4月採用以外の道」として中途採用・通年採用などを企業に要請していきたい。また、卒業後すぐに就職しなくても次の機会を捉えられるよう、学び直し・地域社会への参加を通じて社会への定着を図るようなことが大切だ。人生最初の就職機会を逃したことにより、新卒者が受ける精神的打撃は大きい。こうした若者を支え、サポートしていくことが重要だ。来年の4月採用についても厳しい状況が予想されることを念頭に、サポート体制を充実させていきたい。
 地域の雇用戦略としては、雇用政策、産業政策、文教政策の各政策が縦割りとならずに相互に連携して統合的な運用を実現する必要がある。本人の適性を勘案し、企業を紹介する就職マッチングから雇用の確保に至るまで、各地域が担う役割は大きい。特に、成長産業に若い人材が入っていくような受け皿作りが大事だ。新しい成長分野には、大企業や中堅企業などの参入もそれほど多くなく、企業によるOJT(On−the−Job Training)をメインに置いた人材育成を期待することが難しい。たとえば、農林分野は、単なる雇用機会の提供だけでなく、自ら事業を起こす「起業」支援のような取り組みを比較的長い期間にわたって展開していくことが重要ではないか。

「官民の縦割り」を超えた地方の取り組み

小林 京都府は国よりも先進的な取り組みを実施しているが。

山口寛士・京都府雇用政策監
山口 従来はハローワークにおける就職マッチングが主だったが、厳しい雇用状況、特に若年者の雇用情勢を踏まえて新たな取り組みを始めた。京都府・連合京都・京都経営者協会の連携により、全国初の共同運営方式をとる、総合就業支援拠点「京都ジョブパーク」を07年4月に開設した。09年度は1日平均175人が来所しており、最近は多い日で200人を超える来所者がある。昨年4月から今年の2月末に就職内定を得た利用者は3000人程度だ。若年者、中高年齢者、女性、障害者といった多様なニーズに対応するため、カウンセリング、各種セミナーの案内、専門機関の紹介、就職後の定着支援などを行い、08年度からはハローワークと連携し職業紹介のためのコーナーを設置し、ハローワークの求人検索機を置く体制も敷いて相談から職業紹介までのサービスをワンストップで提供している。「ジョブパーク」の特色として地元企業の参画を図る「企業応援団」の存在がある。企業の人材に対するニーズを把握し、中小企業の採用活動を支援する役割を果たしており、現在は1590社程度が登録している。
 失業の長期化傾向を踏まえ、貴重な人材を教育するために「京都未来を担う人づくり推進事業」を実施した。国の緊急雇用対策による基金を利用して、今年の2月末までの半年間に行われた。京都府・京都市・京都商工会議所・(財)大学コンソーシアム京都の4者による運営体制をとり、全国からの597名の応募者の中から88名を受け入れた。大学で座学を受けた後に企業で実践的な研修を受け、就業支援を行う取り組みだ。京都府内にある9つの大学の賛同による独自の講座として、知的財産管理、ナノ・テクノロジー、組み込みソフト、農業、バイオテクノロジー、食品など29のコースが開設された。半年間の京都未来を担う人づくりサポートセンターでの雇用期間を経て現在は70名を超える就職者を輩出し、8割以上の就職率をあげた。特色の一つはユニークな就職説明会・交流会にある。従来は企業がブースを設置して学生・求職者が訪ねていく形式だが、この事業では企業が求める人材をどう作るかという観点に立って、求職者の作ったブースを企業の採用担当者が訪れる形式にした。求職者の情報は事前にブログなどで知らされている。担当者の流れは必ずしも均一ではなかったが、若者にはそれを刺激として努力を促すことになった。就職マッチングの試みとして好評だった。
 高校生の就職率が厳しいことを踏まえ、高校生の新卒未就職者を対象とした支援事業も昨年11月に開始した。高校生の就職活動には、一人の生徒が一社ずつしか訪問できないといった制限があり、事情がやや異なる。そこで、国の緊急雇用対策の基金を活用し、研修や新たな企業との就職マッチングを行う事業を始めた。今年3月から6月までの3ヶ月間の予定で、約40人を受け入れている。私自身がその半数程度の生徒を面接した印象としては、まじめな性格だが自分自身を十分に説明できない、自分らしさを表現できない、自信が持てないといった問題を抱えているようだ。高校生が自信をつけて就職できるよう、京都労働局、ハローワークと京都府高校生緊急就職支援センターが協力して支援にあたる。
 加えて、09年度には延べ6回(6日間)のワンストップ・サービス・デイ事業を実施した。相談者の構成は、男性が全体の8割程度、40歳代・50歳代が半数以上を占めた。相談の内容は仕事が全体の35%程度、住まいが15%、生活保護や生活資金が30%、心の相談や多重債務の問題が10%程度だった。09年度は試行段階だったが、10年度は京都市内・府北部・府南部のそれぞれにおいて定期開催を協議している。厳しい雇用情勢を踏まえ、現場を見据えた新しい事業に今後も挑戦したい。

非正規社員の組合化、急務

小林 労働組合の立場からは雇用・貧困の問題をどうみているか。

山根木晴久・連合非正規労働センター総合局長
山根木 日本国憲法第27条には「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」とある。政府は国民が勤労義務を果たせるよう、労働市場の整備や労働機会を得られない労働者の生活保障を提供する義務がある。この原点が忘れられているため、現在の危機的な雇用問題が生じているのではないか。近年、株主圧力の高まりや国際競争力向上といった理由により人件費の引き下げ圧力が高まっている。大企業の付加価値分配を見ると、最近の一人当たり人件費は減少傾向にあり、配当や役員報酬の動きとは対照的だ。正社員から非正規労働者への置き換えが進んでいるが、このことは、十分な能力開発機会が得られず、スキルアップが見込めない労働者を増加させている、すなわち、日本の成長のための原動力である人材の劣化を招いていると認識すべきだ。このままではグローバルカンパニーだけが生き残り、国(国民)が沈んでしまうという危機感を抱く。また、2020年頃には中国やインドの労働力人口が減少に転じると予想されているが、良質な働き方を提供できなければ、日本は国際的な人材獲得競争に勝てないのではないか。
 最近、連合と連合総合生活開発研究所(連合総研)が共同でワーキング・プアに対してアンケートや面接による調査を行った。分析から見て取れる特徴として、@家庭の問題と地縁・血縁からの断絶、A教育機会からの排除・逃避、B都市部への転出、C細切れ雇用、Dセーフティネットの不備――などが指摘できる。職が無い、実家に戻れないなどの理由で都市部に移ると住宅の問題に直面する。細切れ雇用では技術が蓄積されないし、成長を実感できないため仕事も長続きしない。そもそも日本では「働くこと」に関わる教育が十分でないなど、ワーキングプアの問題は単にセーフティネットの整備というレベルではなく、本質的な問題を数多く孕んでいる。
 非正規労働の問題には大きく分けて、不安定雇用、低賃金、社会的排除が指摘できる。非正規の賃金は物件費として扱われ、生産調整等による雇い止めによって実質的に解雇される。賃金は最低賃金に準拠するケースが多く低水準であり、勤続年数によって上昇しないために、結婚や子育てといった人生設計が立てにくい。加えて、社会保障の適用から漏れたり、職場での交流がほとんど無いなど排除の対象になりやすい。政策面での課題解決に加え、労働組合としても非正規労働者の組合員化を図り、集団的労使関係の枠内に一緒に加わってもらうことを通じ問題の解決に取り組みたい。

小林 グローバル化による賃下げの圧力、正規社員と非正規社員の格差への対応は。

山根木 労働者を区別しているのは経営者側であり、労働側が非正規労働を増やしているわけではない。95年に当時の日経連が発表した「新時代の日本的経営」の雇用ポートフォリオ論における、専門性のある正規社員とそれ以外の非正規社員を区別し始めたのが発端だ。また、非正規労働者の賃上げと正規労働者の賃下げをバーターで論じる向きもあるが、この論理に立てば賃金は低下の一途を辿る。これでは内需をますます縮小させ、景気はいつまで経っても回復しない。加えて、コストだけが国際競争力ではない。付加価値競争力を高めるためには人材に対する分配強化が必要だ。

雇用支援の民―民連携、労組が支点に 

小林 雇用問題解決のために、「民」に期待する役割は何か。

山崎 現在の雇用問題は様々な要因が絡み合っており、その解決方法は特定しにくい。リーマン・ショック以降の雇用対策としては、政府が相当踏み込んだ支援を行ってきたことは確かだが、政府として「出口戦略」を考えるには、新しい成長分野をはじめとして、一刻も早い民間主導の景気回復、特に消費の回復が重要だ。当然、その過程において政府が取り組むべき課題があれば対応していきたい。地域の自立を図ることは重要で、国の厳しい財政状況を考慮すると、一層その期待が大きくなる。

五石敬路・日本経済研究センター特別研究員/東京市政調査会主任研究員
五石 今後、各地域における新しい制度の設計や雇用創出において労働組合の役割が大きいと思う。京都府の「ジョブパーク」には連合京都の協力があった。また、山根木氏の配布資料にもあるように、雇用創出・就労支援を行う地域のNPOに対して連合は資金援助を行った実績がある(「雇用と就労・自立支援カンパ」)。政府の緊急雇用対策に比べて連合の支援は少額だが、より実績が豊富なNPOを対象とした点で評価される。これまで各地域でのとりまとめは行政が担ってきたが、議会の関与が薄い点は気になる。ネットワーク作りへの関与を通じて、貢献できる余地が残されているのではないか。

小林 雇用問題に自治体が関与すべき、あるいはできる範囲をどう考えるか。

山口 地方の活力には安定した雇用が不可欠で、目標を持った計画が大事だ。京都府では10年度からの4年間において常用雇用4万人の就業を目指している。確かに、求職者を府が雇用し、大学での研修、企業での実習、就職マッチングを行う事業(「京都未来を担う人づくり推進事業」)に対しては、行政がそこまでやるのかという意見も出る。しかし、京都の産業を支える人材は必要であるのに、働き方の多様化で技能が身についていない若者は増えている。人への投資事業として行っている。これまでは企業が年功序列・終身雇用制度のもとで人材育成の役割を担ってきた。それが民間では難しい時代。企業との連携によって行政が支えることが望まれているのではないか。
 高校生を対象とし、ハローワークの高卒就職ジョブサポーターと一体となった就職支援もしているが、3ヶ月程度の訓練を通じて就職させること自体には問題ないと考えている(「高校生新卒未就職者緊急支援事業」)。ただし、3年以内の離職率が中卒で7割、高卒で5割、大卒で3割に達する現状を踏まえ、3年後の定着率が5割以上になるよう、安易な就職マッチングは避けている。来年の新卒市場も厳しい状況を逆に貴重な機会と考え、3ヶ月の期間に様々なキャリア教育を試みている。新卒未就職者は何を契機として変わっていくのか、あるいは就職観を持つのかといった問いに答えが出れば、その内容を高校教育に反映させるべく、教育委員会と共に取り組んでいる。
 ジョブパーク等において6回行ったワンストップ・サービス・デイから学んだことは、雇用対策と福祉施策が表裏一体になっていることだ。ワンストップ・サービス・デイの要点は、ハローワーク(労働局)と福祉事務所(京都市)の機能を一ヵ所に集めることだった。京都府の行政機能は基本的に必要なかったが、生活相談に京都市外からも来る人に京都市が対応することは難しいので、京都府が持つ広域行政の枠内で対応できるよう、ハローワークと京都市の間を取り持つ形で支援した。

山崎 若者雇用については、不安定就労やワーキング・プアの状態に陥った人をどの自治体が受け止めるかという緊急の課題がある。生活保護制度の問題などから、自治体の中には消極的な対応を取らざるを得ない傾向がある。一方で、地域は若い労働力を必要としていることも事実。ワーキング・プアになった人々の緊急支援を行いつつ、そうした若者の能力開発を進め、地域経済を支える人材へ育成していくシステムの構築が大きなポイントとなる。

山根木 自治体、NPO、労働団体が連携して相乗効果を発揮することが重要だろう。「第2のセーフティネット」については、国と自治体の行政の縦割りによる弊害が大きい。制度、窓口、権限が統一されていないため、サービスの内容や適用基準が不明確だ。そこで、連合は携帯電話用のサイト(「イッポ前ナビ」)を開設し、簡単に適用されるサービスと窓口を紹介している。また、職場での労働条件が労働法上、適法かを確認できるように「ワークルールチェッカー」という携帯サイトも設置している。セーフティネットの整備に責任を負うのは本来政府・行政だが、労働者と行政のつなぎ役、コーディネーターとしての役割を労働組合が果たす必要を感じている。なお、自治体の委託事業や臨時職員などは最低賃金スレスレで雇用されている。すなわち自治体自身が生み出している「官製ワーキング・プア」の問題を早急に解決すべきだ。

福祉・雇用政策を一体、人材育成を成長産業に

小林 厳しい財政状況と中長期的な経済の見通しを踏まえ、問題の処方箋は何か。

山口 第一に、福祉施策と雇用対策の一体化を進めたい。現在、国が非正規労働者就労支援センターを全国数ヶ所に設置する予定だが、京都府の施設内に設置するよう協議を進めている。また、求職中で生活に困っている方などを対象に、仕事の相談から住まいや生活に至る相談を提供するワンストップ型の施設を常設することを目指す。さらに、介護や出産で一旦離職した女性が復職する状況に対して、マザーズハローワークコーナー(母親の求職者を対象とした公共職業安定所)、府の母子自立支援コーナー・母子家庭等自立支援センター、NPOの連携を図り、子育て情報の提供も含め、働きたい女性の支援を行う。以上のような対策を通じて京都の労働力を育成していきたい。厳しい雇用環境にあるからこそ、ピンチをチャンスに変える施策が生まれると思う。地域の事業を継続的に実施する観点からは、期限のついた緊急雇用対策の基金だけでなく、安定的な財源が確保される仕組みを、国に求めていきたい。

山崎 従来は企業が大部分を担ってきた人材育成機能を、職業教育や高等教育を通じ支えることが政府の役割として重要となっている。伝統的な企業内のOJTが弱りつつあり、非正規労働者にはOJTを受ける機会自体も乏しい。人材育成の分野そのものを、新たな成長分野にするくらいの取り組みが重要となっている。また、行政の縦割りによってセーフティネットの機能が分散したり、自治体同士の押し付けが起きる状況も改善する必要がある。現場の対応のみでは対応できないような制度の欠陥を直す必要がある。年末年始の緊急支援で明らかになった課題も十分検討する必要がある。

山根木 日本の雇用・労働に関する法制は、審議会における政府・経営・労働の3者による合意に基づき形成される。政府には、その過程において国のめざす方向を明らかにし、指導力を発揮してほしい。特に最低賃金については、余りにも低いが故にワーキングプアを生み出している側面がある。仮に最低賃金を1000円に引き上げても月165時間の労働で月収16.5万円、年収は197万円程度にしか達しない。政府が本気でワーキングプアを無くすというなら、最低賃金を大幅に引き上げるべきだ。
 ワーキング・プアの問題は日本の成長を支える最大の資源である「人材」の劣化の問題であり、社会の劣化につながる問題でもあることを再認識すべきだ。先に触れた調査結果でも、ワーキングプアは、犯罪組織などアンダーグラウンドの人材源になっている事例もある。また、結婚できない、離婚に至るなどのケースが散見される。自殺や犯罪との関連はもはや自明である。セーフティネットの整備は重要だが、ワーキング・プア問題の解決には、そこに至るまでの段階で、家庭、地域社会、教育などの各問題にしっかりと対処することが重要だ。

五石 ワーキング・プアの問題は、地域福祉の議論に含めるべきではないか。この問題を担うべき主体は各地域に存在する。財源確保の必要はあるが、問題解決に使える資源が眠っている状態ともいえる。例えば、社会福祉協議会の関与は見られないが、介護保険外の病院付き添い、配膳、「たまり場」の設置といったサービスで雇用が生まれるので、ワーキング・プア対策に活用できる。また、共同募金の配分を変え、地域の雇用創出に取り組むNPOを支援できるのではないか。労働組合、生活協同組合、労働者協同組合といった各地域の団体が役割を果たし、地域福祉を新しい形に作り変えることが大事だ。


−やまさき しろう−
1954年生まれ。78年東京大学法学部卒、厚生省(現厚生労働省)入省。大臣官房参事官、老健局総務課長、大臣官房審議官などを経て、2008年から現職。

−やまぐち ひろし−
1956年生まれ。80年関西学院大学経済学部卒、京都府庁入庁。広報課長、府民労働部次長を経て、2009年から現職。

−やまねき はるひさ−
1962年年生まれ。86年和歌山大学経済学部卒、東京海上火災保険入社。00年同労働組合委員長、01年損保労連委員長。04年より連合 国会対策局長、企画局長などを経て、09年から現職。

−ごいし のりみち−
1968年生まれ。94年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。アジア開発銀行研究所を経て、2005年東京市政調査会主任研究員。09年から日本経済研究センター特別研究員を兼務。

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セミナー資料 山崎氏
セミナー資料 山口氏
セミナー資料 山根木氏
セミナー資料 五石氏


日本経済研究センターではワーキング・プア問題を取り上げ、2009年11月末に提言をまとめました。 五石氏の論文 「ワーキング・プアの生活保障と労働市場への参加促進」はこちら
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