金融政策の枠組みを問う
2023/02/24
日銀は2022年12月の金融政策決定会合で、10年物国債の事実上の上限金利を0.25%から0.5%へ引き上げた。国債購入枠の拡大、共通担保オペレ-ションの拡充・長期化で、国債金利の上昇圧力は低下したかに見えたが、その持続性は疑わしい。
10年物国債金利は依然として他の市場金利から隔離されたままで、マイナス金利政策の効果を最大化するとの当初の狙いは実現していない。市場機能の不全は、国債先物の裁定取引や社債の起債にも波及している。
「長短金利操作付き・量的質的緩和政策」の問題は、その名称の示す通りだ。量(マネタリーベース)と価格(長短金利)を同時にコントロールしようとする政策枠組みだが、その両立は困難だ。日銀はこの政策導入時(16年9月)、「インフレ目標2%が安定的に達成されるまでマネタリーベースの伸びをプラスに維持する」と約束した。ところが、新型コロナウイルス対応特別プログラムの部分的廃止で、マネタリーベースの伸びは22年9月以降、5か月連続して前年比マイナスになった。説明責任が問われると共に金融安定化政策としての役割が求められる。
日本を含め、世界で大幅な物価上昇が続く中で名目長期金利を低水準に維持することは、基礎的不均衡が発生下で固定レート制度を維持する試みに似ている。
日銀は長期金利の変動幅拡大で対処しようとするが、出口戦略を考慮するなら金利目標年限を3年物に短期化し、マイナス金利政策のフォワードガイダンスとして活用すべきだ。ただ、3年物国債金利を対象にしたオーストラリア準備銀行(中央銀行)の長期金利操作(イールド・ターゲット)が失敗に終わった点には注意が必要だ。インフレの急速な進展を見通せず、政策終了の要件も明示していなかったのが原因だ。
長期金利操作終了時に長期金利がどこまで上昇するのか、不確実性が高い。長期金利は短期政策金利の先行きに左右されるので、マイナス金利政策の解除時まで待つべきだとする見方もある。他方、長期金利の基本的決定要因は、市場が期待する中長期の名目国内総生産(GDP)成長率とリスクプレミアムだ。
内閣府は1月、今後の経済成長として0.5%のベースラインケースと3%の成長ケースを提示した。足元の潜在成長率は0.5%程度だ。過去10年の名目成長率0.5%が今後も続くと市場が予想するなら、長期金利0.5%と整合的だが、市場予想の10年物金利は1%程度で、内閣府による2つの名目成長率とも見合っていない。
脱炭素社会への移行期には、有限な地球資源が付加的制約として加わるため成長の天井が低くなり、脱炭素による物価上昇「グリーンフレーション」が持続する。この部分を中央銀行はコントロールできない。グリーンフレ―ションを勘案すれば、生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価指数(日銀版コアCPI)で定義した物価安定目標は2%より低くなる。物価安定目標を長期目標とする場合は、この点にも留意すべきだ。
(2023/2/17付 日本経済新聞朝刊掲載)
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