2026年の日本経済を考える 雇用編
「動員型」から「生産性向上型」へ
2026/03/30
これまでの2回では、2026年の日本経済について、景気(成長率)、物価という二つの分野について、気になることを指摘してきた。今回は、雇用について考えてみたい。
2026年の雇用の展望
「持続的でできるだけ高い経済成長」「物価の安定」「完全雇用の実現」、この三つが経済政策の最重要の目標だと私は考えている。その中でも、「働きたい人に働く機会が提供されている」という完全雇用の実現は、最も重要だと言えるかもしれない。
雇用は、人々のウェルビーングという観点からも大変重要であることが知られている。古い資料で恐縮だが、内閣府経済社会総合研究所「幸福度に関する研究会報告」(2011年12月)では、失業による幸福度への負の影響について、
①雇用されている人より失業者の方が幸福度が低い
②幸福度の低い人が失業するのではなく、失業により幸福度が下がる
③特に、家族に責任がある者、中年の男性などで、失業による幸福度の低下が大きい
④失業が幸福度に与える影響は永続し、5年以上たっても消えない
という研究成果を紹介している。働き盛りで、家族の生活を支える立場にある人が失業することは、ウェルビーングへのダメージが大きいのである。
2025年の日本の失業率は2.5%だった。これはほとんど完全雇用と言っていいだろう。国際比較してみると、アメリカ4.3%、カナダ6.9%、ユーロ圏6.4%、イギリス4.8%(2025年)という具合で、日本が断然低い。今後をESPフォーキャスト調査(2026年3月)で展望すると、2027年度も2.5%と予測されている。日本は主要先進諸国で唯一完全雇用状態にあり、しばらくその状態は続きそうだということである。経済パフォーマンスを評価する時、我々はどうしても問題点の方を指摘しがちだが、こうして雇用が完全雇用状態を保っていることは、日本が誇るべきことだと言えよう。
人手不足と潜在成長率
本連載の第14回「2026年の日本経済を考える 景気編」で、経済成長という点では、日本の潜在成長力が低いことが大きな問題だと指摘した。内閣府の推計によると、日本の1990年代後半の潜在成長力は1.2%だった。これは現時点での主要先進国の潜在成長率とあまり変わらない。ところが、2025年にはこれが0.4%に低下しており、主要先進国の中で最も低いものとなってしまった。
これを見て「それは人手不足が原因だろう」と考える人が多いかもしれない。日本の人口は減り続けており、経済社会の中軸を担う生産年齢人口(15~64歳)も減少し、人口に占める比率も下がり続けている(いわゆる「人口オーナス」)。潜在成長率を規定する要因は、「全要素生産性(技術進歩)」「資本投入量(設備投資の累積としての設備ストック)」「労働時間」「就業者数」の4つである。生産年齢人口が減れば就業者も減り、これが潜在成長力を低下させると考えるのは自然なことである。
しかしこれは誤りである。図表1は、日本の潜在成長率を要因別に分解したものだ。1990年代後半と2025年を比べると、日本の潜在成長率は、0.8%も低下したのだが、その理由は、全要素生産性の低下と資本投入量の減少であり、労働時間や就業者数は1990年代後半とほぼ同じ寄与度を保っている。つまり、日本の潜在成長力低下の要因は、「人口減少」→「労働力の減少」→「供給力の低下」→「潜在成長力の低下」というメカニズムが作用したわけではない。主な要因は、「企業の設備投資の低迷」→「資本ストックの低迷」→「供給力の低下」というメカズムが作用したことと、技術革新のテンポが鈍化したことだったのである。

つまり「人口オーナス下では就業者が減るので、潜在成長率(経済の供給力)が下がる」という懸念は、これまでのところは杞憂だったわけだ。その理由は、生産年齢人口が減っても就業者は減らなかったからである。生産年齢人口は、2000年の8638万人から2025年には7348万人(9月1日現在)に減少しているのだが、就業者数は6446万人から6828万人に増えているのである。これは、生産年齢人口には入るが就業者ではなかった女性の就業者が増え、生産年齢人口には入らない65歳以上の高齢者の就業が増えたからである。つまり、日本経済は人口オーナスの負の影響を女性、高齢者の就業率を高めることによって乗り切ってきたのである。私はこれを「動員型対応」と呼んでいる。
図表2は、人口減少が始まった2010年と最新の2025年の雇用者(役員を除く、以下同じ)の内訳を比較したものである。次のようなことが分かる。
①この間の雇用者の増加のうちの約4分の3(74.8%)は女性であった
②男性の雇用者の増加のほとんど(79.3%)は非正規労働者であった
③女性の雇用者は、正規、非正規共に増えており。その増加数は、正規で男性の8.1倍、非正規で1.6倍であった
④この間の雇用者数増加への寄与は、正規の女性(42.0%)、非正規の女性(寄与率32.9%)、非正規の男性(20.0%)の順で高く、正規の男性はほとんど寄与しなかった(5.2%)
これは次のように解される。もともと男性の場合は、「働く意思のある人は正規の労働者として働いている」という状態だったから、人口が減ってもこの層はほとんど変化がなかった。もし他の条件が変化しなければ、就業者はほとんど増えず、人口オーナスが成長を制約するという懸念が現実化しただろう。しかし、困ったことがあれば、我々はそれを何とか乗り切ろうとする。企業は、人手不足を迎えて、正規、非正規を問わず女性の就業者を増やし、男性の高齢者を非正規の形で受け入れたのである。

労働制約が成長を制約するのはこれから
問題はこうした「動員型の対応」がそろそろ限界に近付いていると考えられることだ。動員できる女性、高齢男性のプールが枯渇しつつあるからだ。ここでキーワードとなるのが「ルイスの転換点」という考え方である(この概念を最初に使ったのは、川口大司、原ひろみ「人手不足と賃金停滞の並存は経済理論で説明できる」玄田有史編「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」、慶應義塾大学出版会、2017年所収)。
経済発展を始めた国は、当初は生産性の低い農村の余剰労働力が、生産性の高い都市の工業部門に移動することによって経済が成長する。日本の高度成長期がこの時期に当たる。しかし、余剰労働力が枯渇すると、このメカニズムが機能しなくなり、低賃金に依存した発展は転換を迫られる。これがルイスの転換点である。日本は1970年代にこの転換点を迎えたと考えられている。
さて、近年の日本は、人手不足を補うのに女性や高齢者の労働力率を引き上げてきたのだが、それが限界に達しつつある。これが「第2のルイス転換点」である。内閣府が2024年2月に公表した「日本経済レポート2023年度」では、この第2のルイスの転換点の現実性を検討し、「今後も労働参加率の一定の向上は期待できるものの、人口減少の波を打ち消すのは容易ではない」としている 。当センターの「中期経済予測」(2026年3月)でも、標準シナリオ、改革シナリオ共に、労働力人口は、2026-30年度マイナス0.1%、31-35年度マイナス0.4%、36-40年度マイナス0.7%となっている。近年中にルイスの転換点を超えるというシナリオである。
これを「人口減少と生産性」の問題としてもう少し考えてみよう。日本の人口は2010年頃から減り続けているのだが、経済はプラス成長を続けている。この間の年率で見た平均成長率は1.2%である。これは、日本経済は、人口減少を国民一人当たりの生産性の上昇でカバーしてきたということである。この「人口」を「生産年齢人口」に置き換えると、日本経済は、生産年齢人口の減少を生産年齢人口当たりの生産性の上昇でカバーしてきたということになる。
この主張は各方面で見られている。例えば、古い引用で恐縮だが、ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンは、ブルームバーグラジオのインタビューで、“They have terrible demography. Once you take that into account, their growth per working-age person is not that bad. ” 「日本の人口の姿はひどいものだが、労働年齢人口(生産年齢人口のことだと思う)当たりの成長を考慮するとそれほど悪いわけではない」と述べている(Bloomberg business economics、2013年2月6日の記事)。彼は各方面で「日本は見かけの成長率は低いが、生産年齢人口一人当たりで見ればそれほど悪くない」と発言しているのである。
この主張は間違いではないのだが、非常に誤解を招きやすい。「生産年齢人口当たりの生産性の上昇で人口減少を乗り切った」と言われると、普通は「生産年齢人口の人々がより効率的に働いて人口減少を乗り切った」と考えるだろう。しかしそうではない、前述のように、女性や高齢男性の労働力率が上がったので、見掛け上生産性が上がったのであり、生産年人口の人々がより効率的に働くようになったわけではないのだ。
図表3は、生産年齢人口当たりの生産性と、実際に働いた就業者数当たりの生産性を比較したものである。生産年齢人口当たりの生産性は上昇しているのに、就業者当たりの生産性は停滞していることが分かる。働く人一人一人の効率性はあまり上昇していないのである。
人口オーナスで生産年齢人口が減ることが成長を制約するのは、これからが本番である。第2のルイス転換点後の日本経済は、動員型ではなく、就業者一人当たりの生産性の向上で人口オーナスに対応していくことが求められることになる。

バックナンバー
- 2026/05/11
-
2026年度の日本経済を考える 賃金編
持続的な賃金上昇には生産性向上が不可欠
クールヘッドとウォームハートで考える日本経済 第17回
- 2026/03/30
-
2026年の日本経済を考える 雇用編
「動員型」から「生産性向上型」へ
クールヘッドとウォームハートで考える日本経済 第16回
- 2026/02/18
-
2026年の日本経済を考える 物価編
クールヘッドとウォームハートで考える日本経済 第15回
- 2026/01/28
-
2026年の日本経済を考える 景気編
クールヘッドとウォームハートで考える日本経済 第14回
- 2025/11/27
-
昭和的な慣行は変わるのか 午前3時問題から国会、政府、官僚の関係を考える
クールヘッドとウォームハートで考える日本経済 第13回
